2025年8月22日付「日本経済新聞」において、「障害者解雇最多3.8倍/昨年度『事業所廃止で』6割」との記事が掲載されました。障害者が雇用契約を結んで働く就労継続支援A型事業所が経営難のために廃止に追い込まれている旨を報じています。これに追い打ちをかけたのが、国のサービス報酬改定であると解説しています。
日本経済新聞(2025年8月22日)(PDF)
我が国の障害者雇用・就労対策は、縦割り行政を背景に「福祉」と「労働」が分別され、両者には大きな格差が生じています。
嘗て、藤井克徳氏(日本障害者協議会)が「二分法モデル」と「対角線モデル」(「職業リハビリテーション」第22巻1号:日本職業リハビリテーション学会)を示して、「福祉」と「労働」の連携の必要性を指摘されましたが、残念ながら両者の連携は殆ど進んでいないのが実情です。
両者の連携(対角線モデル)という観点から、期待されるのがA型事業所の存在です。A型は、企業への一般就労は難しい方達が、福祉的なサポートを得ながら雇用契約を締結して就労するもので、「福祉」と「労働」のハイブリッド型とも言える形態です。障害のある方々の希望や能力に応じて、多様な就労機会を提供する上で、A型の果たす役割は大きいと言えます。
もう一つ、「福祉」と「労働」の連携に繋がる制度に、障害者雇用促進法に定める「特例調整金」があります。2006年に設けられた「在宅就業障害者支援制度」によるもので、自宅若しくは福祉施設に対して仕事を発注した企業を助成する発注奨励策です。就労継続支援B型事業所(非雇用型)への仕事の発注について、特例調整金を発注企業に支給するという内容です。労働施策でありながら「福祉」にも焦点を当てた画期的な制度と言えます。
残念ながら、本制度は、名称に「在宅」という表記があるため、広く福祉施設への発注の場合も適用されることが認知されず、その他の理由も重なって有効に活用されていないのが実情です。
弊社は、永年の取引先であるHonda様から受注している自動車部品組立に関して、同制度を適用し、2008年以来、国からHonda様に対して特例調整金が継続して支給されています。
進和学園におけるHonda車部品組立は、「しんわルネッサンス」のA型・B型を支え、また、特例調整金が本邦自動車メーカーでは、Honda様1社のみに支給されている実績と現場からの問題意識を踏まえ、弊社は、特例調整金を活用した「みなし雇用制度」の導入を提言しています。
特例調整金は、発注企業が法定雇用率を満たせない場合、ペナルティーとして課される障害者雇用納付金と相殺することが可能であり、一部、間接的な「みなし雇用」が導入されています。これを前進させて、福祉施設に仕事を発注した場合に、障害者への工賃実績に伴い、当該発注企業の法定雇用率に加算するというのが「みなし雇用制度」です。勿論、障害者の直接雇用は重要であり、軽視するものではありません。法定雇用率(現行2.5%)の一定割合(例えば2.3%)までは直接雇用を義務付け、それを超える部分は「発注」ベースも雇用率に加算して評価するという2段階方式が妥当と考えます。
A型事業所の廃止が目立つということは、「仕事」の確保が難しいという現実を反映したものと思います。企業への発注を奨励し、A型及びB型事業所を利用する障害者の仕事が増えれば、事業収支は安定します。企業にとっても、雇用のミスマッチから職場への定着が叶わず退職してしまうという悩みは多く、直接雇用に加えて「発注」の場合も法定雇用率にカウントされるとなればメリットは大きいと言えます。
「みなし雇用制度」の導入が、A型及びB型をも含めた福祉的就労全体の底上げ、ひいては障害者雇用の質的拡充に繋がると考えます。最低賃金の更なるアップと、来年(2026年7月)、法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられますが、「福祉」と「労働」の格差が一層拡がることが懸念されます。改めて、「みなし雇用制度」の導入に焦点を当て、「福祉」と「労働」の有機的な連携が実現することを願っています。
【参考】
2021年10月12日に開催された第110回労働政策審議会障害者雇用分科会において、関係団体からのヒアリングが行われ、(株)研進もご指名を賜りました。同分科会の議事録が、厚生労働省のHPにおいて公開されています。
弊社からは、障害者雇用促進法における「在宅就業障害者支援制度」の見直し及び同制度を発展させた「みなし雇用制度」の導入ついて提言させて頂きました。ご関心のある方は、議事録をご覧下さい。
第110回労働政策審議会障害者雇用分科会議事録(厚生労働省)